のの子のつぶやき部屋

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【少女漫画】萩尾望都 『AWAY』 もし◯◯なら…思考実験

 バルバラ異界以来の本格的なSF作品でしょうか。

 萩尾先生現在65歳でいらっしゃって、なおこういう話や絵柄を描けるのが本当にすごいです。

 

 舞台は今より少しだけ未来の2033年の日本。ある日を堺に18歳以上の大人が消えてしまうという現象が起こる。その時に残された子どもたちはどうなるのか…というある種の思考実験を描いたような漫画。

 

 2033年という微妙な未来の年代設定が絶妙で、細かい未来設定がもうセリフやコマの端々で溢れててものすごい情報量になってる。

 近い未来の日本の社会制度も読んでいて結構考えさせられる。

 

 漫画の中で「震災」という単語が度々出てくるけど、それは東日本大震災のことではなく、作中の2023年に起こった東京震災という地震のことを指しているようで。

 詳しい描写や説明はないが、結構大規模な地震だった模様。

 そういった災害を経て、日本では行方不明者の捜索を容易にするため体内に埋め込むタイプのGPSが開発され、実用化されている。家族や地域単位。非常時日常時、学校用と範囲や用途が限定してあるのがよりリアルっぽい。

 そして震災を経験した人たちは結局自分たちの身は自分たちで守るしか無いと思い至り、地域単位での防災活動の意識が高く、主人公の一紀の住む榛野市は15歳で青年団に入ることになっていて定期的に防災訓練を行っている。

 萩尾さんにとっても東日本大震災は大きな出来事だったようで、こういう災害の話とか日本の防災のこれからとかは描かずにはいられないのだと思います。

 でも今回は自然災害がメインではなく、大人の消えた世界の子どもたち、そして子どもが消えた世界での大人たちにそれぞれどんなことが起こるのかが話の中心。

 そういうテーマで現代の社会問題的な出来事が挟まってきて、萩尾さんが関心を寄せている事柄がいろいろわかる。

 純粋にSF物語としてというよりも萩尾さんが描かずにはいられないこと、何故なのか、どうしてなのかと疑問に思っていることを漫画で表現しているように思えた。

 

 子どもたちの社会では、リストというひきこもりの少年が場面緘黙症(特定の場面以外の場所で人と話すことができなくなる発達障害の一種)の少女ネネちゃんを連れ去り自宅に監禁する事件が起こる。

 このリストという少年は、名前の通り音楽家のリストから付けられた名前で、幼い頃からピアノの英才教育を受けてきた。しかし過度な周囲の期待からかいつしか引きこもるようになってしまう。そして大人がいなくなったことで両親、とりわけ母親からの抑圧から開放され、彼の中の箍が外れてしまう。

 リストはネネちゃんの家にゴルフクラブを持って押し入り、幼い兄弟を3人殴り殺してネネちゃんを誘拐する。

 ネネちゃんを助けにきた一紀たちにリストは言う。

 これからは子どもの世界で、自分の好きなことをしていける。女の子が欲しかったらさらってきて閉じ込めてもなにか言う大人はいない。好きな子を連れてきて何をしてもいい。

 それを聞いて、一紀と一緒にネネちゃんを助けるために来てくれた河津という少年が、持っていた猟銃でリストを撃ち殺してしまう。

 警察のいない世界でリストのような者を捕まえることも罰することもできなくなってしまった。

 一紀は河津がリストを殺したことは仕方がなったというが、本当にそうなのだろうか…。

 

 そして、この漫画では実は子どもの世界のは逆に大人だけになってしまった世界が存在する。18歳になった瞬間に大人の世界「HOME」へ行き、そしてHOMEで子どもが生まれると間もなく子どもの世界「AWAY」へ赤子が転送されてしまう。

 大人の世界ではある程度社会生活が保たれてはいるが、全世界で一斉に子どもがいなくなるという出来事でパニック状態から抜け出していない。

 子どもの世界では各種メディアは管理する人間がいなくなってしまったためにネット以外はほぼ情報が無いことを考えると情報が行き渡ることで逆にパニックを引き起こしてしまっているような気がする。子どもたちは情報がない中で必死に情報を集めて団結していこうとしているのに比べ、大人達はそれぞれの主張をぶつけるだけで協調ができないでいる。

 18歳になると大人の世界に帰るという原理がまだわからずにいた頃に子どもが帰ってきた家庭では、なぜその家だけ子どもが帰ってくるのかと暴動のようなものが起こり、その家は放火されてしまった。

 大人の世界は冷静さが失われ、みなストレスではちきれそうになっている。

 帰還した人がテレビのインタビューに答えればTwitterは大炎上。いい気になるな、他の親のことも考えろ、等々…。

 こういう場面もリアル過ぎて、鬱々とした気持ちになるというか。

 タイトルからドタバタ系のコメディかなーと思ってたから、予想外に身につまされる内容でショックを受けた。

 

 作中で単語として出てくるだけの「東京震災」そして「東アジア戦争」

 近い未来に起こりえる事案として、あまりにリアルに聞こえる言葉で読んできて冷やっとした。

 

 1巻の時点では予想外に暗い展開で、唯一の救いは一紀と従兄弟の大ちゃんの淡い恋だけ…。ってか大ちゃんの片思いだけど…。大ちゃん頑張れ。住む世界は違ってしまったけども。

 

AWAY-アウェイ- 1 (フラワーコミックス)