のの子のつぶやき部屋

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【BL】西田ヒガシ『やさしいあなた…』柵の多い大人の恋愛

 電子版発売後すぐに買ったのですが、さっきRenta見に行ったら

やさしいあなた…

やさしいあなた…

[著]西田ヒガシ

 

 すっごい評価高い…!!買ったときはまだレビューついてなかったのでびっくり。

 西田さんの既刊の中で一番評価高いのではないかと思う。

 西田さん固定ファンも多いし、間違いなく人気作家なんだけど、こんなに大々的に盛り上がってるのを見たことないので嬉しい…。

 以下感想です。

 

 

 ヤクザ(インテリ)×ヤクザ(武闘派)という触れ込みで購入を決めたこの作品。

 お互いに素性を知らずに出会い、強烈に惹かれ合う春本と水田。

 水田のことを医者だと思っている春本と、春本を会社経営者だと思っている水田。自分の本性を知られたくなくて、でも相手のことが気になって仕方がない。

 

 春本と会っているとき本当の自分でいられる、そういう夢を見ることができる、と水田は独白する。

 バレる前に一度抱かれてみるのも悪くない、俺の人生には二度と無い経験だ、紳士に愛されている夢を一度くらい、と春本は思う。

 どっちも、「今の自分」というものへの深い諦めがある。二人とも好きでヤクザなんてやっているわけではないが、やめてカタギになって付き合いたいという思いにはあまり真実味がない。例えそう願ったとしてもできないことを知っているから。

 

 素性を隠して会っているうちに二人は後戻りできないところまで気持ちが高まってしまう。

 けれど、そこでついに互いの正体が知れる。

 私は今作で、ここの素性がバレてしまうシーンが個人的に一番好き。

 地上げのための物件に居座る住人、どうやら元の住人と繋がりのある医者くずれのヤクザらしい。そこに春本は立ち退きをさせるために部屋に乗り込むのだが、そこにいたのはなんとあの紳士の水田だった。

 水田も乗り込んできた男が春本だと知る。

 「春本さん」と名前を呼ばれ、春本は「医者崩れの…水田さん」と返す。

 

 ここでの二人は、対外的に互いにヤクザであることを通さなければいけない。夢の世界だった医者と経営者として対峙することはできないのである。

 どんなにそうしたかったとしても。

 「違うんだ」「そうじゃない」「本当は」「誤解だ」何一つ言えはしない。

 そして、それをわかっていて、何もかもが壊れるとわかっていて自分の役割を全うする、できてしまうのが、諦めることを知り、社会の柵に囚われた大人なのである。

 敷かれたレールから外れることはできない。

 ヤクザなのにこういう表現はちょっと変だけど、この場ではヤクザの社会性を遵守するのが最優先事項で、二人の個人的な関係というのは二の次三の次にしなければならない。それを互いにわかっていて、相手を傷つけることもわかっているのにやってのけてしまえるのが悲しい。

 もちろんヤケになっているということもあるだろうけど、この場では互いを傷つけることをいうのが正解なのだ。絶対に言いたくないことも言わなくてはいけない。そして言うことができる。

 本来は、素性を隠して会っていたときの方が「演技」であるのに、ここではお互いの本性を晒して相対しているのにこっちのほうがよほど「演技」しているように見える。少なくとも、素性を知らずに出会っていたときでも本心を語っていたのは真実だ。でもここで互いに投げる言葉は本心ではない。

 でも本心を顔にも態度にも出さずに会話する春本と水田。

 

 様相が崩れるのはその後。車の中で号泣する春本。何も言わずに音楽のボリュームを大きくする部下の心遣いが泣ける…。

 

 しかし、それでも互いが諦められない二人は出会ったバーにどちらともなく立ち寄り再会し、結ばれる。

 さあ、これでハッピーエンド、とは行かないのが西田BLです。

 付き合うことになり、つかの間の幸せを満喫する二人。

 競合物件の問題では水田のことを考え強く出ることができない春本に上からの圧力がかかっていた。状況を知っている春本の部下の田村(気遣いの人)が単身で乗り込み負傷する。

 春本は水田との旅行の予定があったが、部下を捨てて行くわけには行かなかった。自分の幸せよりも、傷つけられた子分への報復が優先しなければいけない。

 でもそれをすれば間違いなく刑務所行き。

 だから、春本は水谷別れを告げる。

 

 

 夢はいつか終わる。本心で愛し合うことができてもやっぱり夢の世界であることに変わりはなかった。

 だから、夢を終わらせることにした春本。

 そして、そんな春本を見て水田も決心する。

 

 そして、衝撃のラストシーン。

 

 社会に囚われた大人なので、社会的な制裁を受けます。ここの社会性ラインっていうのか、そういうのが本当に絶妙だと思う。現実感というのはちょっと違う。やっぱり、「大人」だから「社会に生きる人だから」ということに尽きる。

 

 ちょっと続きが気になる終わりだったけど、西田さんの漫画ではよくある感じ。気になっても続編はない。

 そして、今回も安定のあとがき。

 

 全体的にものすごく純愛だったけど、私はそれ以上の世知辛さみたいなところがよかったなーと思った。

 

 西田さんって後ろ暗い過去がある人の二面性みたいなのを描くのがすごく上手いと思う。

 今作が気に入った人は是非、「願い叶え給え」とか「フェイス」「ディビジョン」とか読んで欲しいです。(というか西田さんのはどれ読んでも面白いです)

 書き始めて長いのにずっと面白い話を書き続けられる人ってすごいと思います。本当読者としては感謝しきりで…。

 次回作も期待して待っております。

 

やさしいあなた… (EDGE COMIX)