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のの子のつぶやき部屋

BLとかBLとかBLとか。少女漫画とか。他にも。ただの萌え語り。基本ネタバレ。

【一般漫画】いくえみ綾『トーチソング・エコロジー』 ついでにトーチソング・トリロジー

一般漫画 映画 いくえみ綾

 久々に好きなタイプのいくえみ漫画だと思った作品だった。

 いくえみ綾はこういう恋愛が中心の話で無い方が私は好きです。

 

 トーチソング・エコロジーの話の前に、ついでにトーチソング・トリロジーの話をしようと思います。

 この漫画はトーチソング・トリロジーという映画のタイトルをもじって付けられているみたいで、気になって見てみました。

 原作はブロードウェイ・ミュージカルで、ドラァグクイーンとしてショーをしているアーノルドというゲイの中年男性の生き方をコメディテイストで描いたもの。

 同性愛がテーマになっている映画は結構見てたんですが、これはノーチェックでした。

 ゲイ、と一口にいってもいろいろあって、主人公のアーノルドは一言で言えばオネエです。職業としてドレス着て化粧もして歌を歌ってるけど、普段は男の格好してるっていうゲイ。

 そんな彼の人生というか、主には恋愛が中心の話です。

 ストーリーはウィキのあらすじが全部説明しているので引用すると、

 

 ニューヨークのゲイバーで働く女装芸人のアーノルド。恋人のエドを愛していたが、バイセクシュアルの彼は女性と結婚しアーノルドのもとを去っていった。
 その後アーノルドは純朴な青年アランと出会い、一緒に暮らし始める。2人は里親として孤児を育てる計画も立てるが、アランはゲイを憎むホモフォビアの男によって殺されてしまう。
 アラン亡き後、養子となったデイヴィッドと暮らすアーノルドのもとに、妻と離婚したエドがやって来る。再び友情で結ばれた2人は、アーノルドを異常だと考える母親との対立をこえ、尊厳と誇りを持って生きていく決意をするのだった。

 

 映画見る前にウィキを読んだ時は導入部の説明だと思っていたら、映画全体のあらすじだったっていう。

 でもネタバレとか関係なく面白くみれた映画でした。

 あらすじの通りの話なんですが、ものすごくドラマチックということもなくて、本当に小さな幸せの積み重ねであったり、そういうことを丁寧に描いている映画。

 途中7年間も付き合って、結婚の約束もしていた恋人が殺されてしまいますが、そのことを悲しむ描写も直接は出てきません。この映画では主人公のアーノルドがどれほど力強く前向きに生きているということを見る映画だから。

 後から、その事で感情的になる場面はありますが、泣いたり、叫んだり、そういうことはこの映画では省いていて、でもそれが逆にどれだけ悲しんだのかと想像されて切ないです。

 アーノルドはエドが裏切って、自分を偽って女性と結婚しても(彼はバイだと言いはりますが、ゲイの自分を否定するために女性を愛そうとしているように見えました。彼はゲイであることを潜在的に恥じている)彼を許して、受け入れて、死んでしまった恋人のアランのことも決して忘れず思い続け、そして自分を認めてくれない母親のことも反発しながらも愛するのです。

 すごく愛情深いんですよねアーノルドは。

 悲しい過去も、難しい現実も全部受け入れて彼は、ゲイである自分に誇りを持って生きています。

 映画の最後、アーノルドが母親と口論する場面があるんですが、彼は母親に「心から愛している。でも自分を見下げるなら出て行って」と言います。

 自分は独立した人間で誰を頼らずともちゃんと生きていける。ゲイであることは恥ではない。愛と敬意以外はいらない。たとえ母親であっても自分を見下して否定することは許さない、と。

 この矜恃です。

 この強さが羨ましくなりました。

 誰もがアーノルドのように強くは生きられないですから。

 

 まあ、こんな感じの映画で漫画のトーチソング・エコロジーは全くお話的には関係ないです。

 思いがけず、見た映画でしたが見てよかったと思いました。

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 映画を見たのでトーチソング・エコロジーも改めて読んでみましたが。

 うーん。

 いくえみさんの漫画って感想を言葉にするのってすごく難しいですね。考えるな、感じろ!みたいなの多いし。いや、考えるなはダメか。考えつつ、感じろ!

 いくえみ漫画はエンゲージからほぼ全部読んでいますが、トーチソング・エコロジーはその中でもすごく好きな作品です。

 いくえみ綾じゃないと描けない話。いくえみ綾じゃないと読めない話。

 再読してまた泣いてしまいました。

 

 すごく感動するし、面白いんだけど、どこが?と聞かれると結構困ります。

 別に作中では特に大きく何かが変わるとかそういうことはなく、普通に生活している人が、ちょっと変わった日常を経て、じわじわと幸せになってく話、というか。

 この漫画はすごくハッピーエンドなんです。もう大団円と言っていいくらいにハッピーエンド。

 

 いくえみ綾の漫画の登場人物は本当にどこにでもいそな感じの人が多くて、今回の主人公の清武迪は売れない役者。アルバイトをしながら、細々と俳優の仕事をこなす日々。芽が出る気配はない。

 そんな彼を中心に様々な人物が入り混じり展開していく物語。

 

 迪のアパートの隣に引っ越してきた高校時代の同級生の日下苑。高校時代とは明らかに顔が変わっていて、しかも赤いくつをはいた女の子の幽霊をつれている。

 日下苑と共に現れた、昔の苑の顔そっくりの名前の無い幽霊の女の子。

 迪の高校時代のの同級生で19歳の時にバイク事故で死に、後に迪の前に幽霊として現れる高遠峻。

 ちょっと霊感がある人気若手女優の水澤かなえ。

 迪のことを何かと気にかける峻に少し似ている人気俳優の早戸翼。

 以上が主要な登場人物。

 彼らの関係が変化していくことで、物語も進んでいく。

 幽霊が二人出てきますが、彼らが本当に所謂幽霊なのかというとちょっと違って、思い残した気持ちの思念体みたいなものだと考えてます。

 女の子の方は、顔は苑そっくりで最初は生まれる前に、気づかれることもなく死んでしまった苑の子どものように描かれますが、それは多分ちょっと違って、それもあるかもしれないですが彼女は苑の生霊みたいなのが一番近いかなーと。

 いきなり、幽霊が出てきても現実のリアルな世界観が崩れないのがいくえみワールド。これまでにも幽霊ネタ結構描いてますが、幽霊と人間の境目、現実と非現実がうまく交じり合って独特の雰囲気になってます。

 現実の写実的な背景と非現実の形がないものの描写のバランスがうまくて、非現実なんですが世界観が破綻しません。

 ものすごく自然に幽霊との生活を送る迪。ちょっと楽しそうでもあります。

 

 でも幽霊生活が誰よりも楽しかったのは幽霊本人の峻だったようです。

 自分が一番楽しかったという高校の制服姿で迪の前に現れた峻。

 高校時代、自分にしつこくつきまとう苑に嫌気が差した峻は迪に自分たちが付き合っていると苑に嘘をつくことを持ちかけます。結局嘘はすぐにバレたけど、その後苑が峻につきまとうことはなくなった。

 そのしょうもない作戦で苑を騙そうとして演技をしたことで不思議な高揚感を味わった迪は思いつきで俳優への道を目指し、高校卒業後は俳優の養成学校へ進学。

 一方高校を卒業後あまり頻繁に連絡も取らなくなっていた日のこと峻は迪に、一通のメールを送ります。

 遠回しに迪のことが好きだったと告白する内容のメール。そのメールを受け取った迪はすぐに返信ができず、そうしている間に峻は事故で亡くなってしまいました。

 

 真実の口のエピソードすごく切なくて好きです。何回読んでも泣いてしまいます。

 「真実の口」というタイトルで自分の思いを打ち明けた峻。

 苑の前で演技をしていたときに真実の口に手を入れていれば、噛まれるのはスーだけだった、という曖昧な文章。

 峻らしい軽い口調のメールですが、言葉の端々に彼の迷いや、後ろめたさが見えて、その後迪の返信を受け取ることなく死んでしまったことを思うとボロボロと涙が出ます。

 その後で幽霊になった後の峻の独白シーンが3巻にありますが、彼が表面通りの明るい少年ではなかったことがわかります。

 後悔だらけで死んでいったゴミだった、と。陽気なようでいて心のなかに暗いものを持っていた峻。

 本編中ではあまり峻のことについて掘り下げて語られることはないんですが回想で出てくる峻の言動はよく見るとそれぞれさり気なく意味があって、そして更に本編で描かれない部分に峻の苦悩があるような気がして切なくなります。

 幽霊になってやっと言えた

「愛してるぜスー!」

 満面の笑みで。両手を広げて。まるで子どものように。

 

 そんな峻の仄暗い闇に気がついたのが日下苑でした。

 もちろん峻がゲイだということに気がついたとかそういうことではなく、峻にぶつかった時に一瞬だけ見せた暗い目、そしてそれをすぐに打ち消しいつもの顔になる峻。

 その一瞬の暗い目に苑は自分と同じものを感じて、峻に強烈に惹かれて半ばストーカーのようにつきまとい、峻に拒絶されてあえなく散るわけです。

 苑はトーチソング・エコロジーのもう一人の主人公といってもいいと思います。タイトルがトーチソングで苑はシンガーですから。

 登場時からしばらく苑はちょっと不気味です。学生時代にストーカーまがいのことをして峻を困らせていた人物ですから、それを間近に見ていた迪の視点でみると不気味な女です。しかも得体のしれない幽霊まで連れている。

 その後、喉を手術し声が出なくなってしまった苑は、迪にもだんだん依存し始め、迪も彼女に嫌気がさしてアパートを引っ越していってしまう。

 2巻のラストあたりの黒塗りのページは寒気がしました。

 でも苑には歌があった。迪を失望させた自分が許せないと思った苑。信頼を取り戻すには、自分を取り戻すには歌うしかない。そうして歌い始めた苑のそばには名前の無い女の子が寄り添います。苑は声を取り戻した。

 峻への片思いの歌を3巻のラストで歌うシーンがありますが、その一連の流れが本当に素晴らしいです。

 苑はアルバイトをしながらも歌を歌う生活を初め、新たなパートナーと出会い、子どもを妊娠する。女の子か男の子かどんな名前にするかでもめる夫婦。名前を書いた紙をばらまいて表になったものにしようということになる。

 一方の迪は役者として成功を収め、結婚し子どもも授かった。(奥さんの吉田さんもすごく良いキャラ。結婚しても迪が吉田さんって読んでるのがおかしいw)

 場面変わってどこかのデパートにある真実の口のレプリカをじっと見つめる息子の真太郎。真実の口に迪が手を入れようとすると真太郎は怖がって泣いてしまう。

 そうこうしていると、迪が見つかって大勢に取り囲まれてしまう。そんな迪を見て、真太郎はかあちゃ(吉田さん)にさみしい?と聞く。かあちゃとぼくのとおちゃなのに、って。迪がみんなのものになってしまったようでちょっと拗ねる真太郎。

 人波から開放された迪を迎える真太郎が両手を広げて叫ぶ。

「あいしてうぜ とうちゃ――――

 どこか遠くを見つめるような表情の迪をうっすら背景にして、一斉にばら撒かれる紙。

 そして歌われる苑の峻への思いを歌った歌。

 

『あなたに――

 心 奪われる理由を

 みつけるのは かんたんなこと

 あなたに

 心 とらわれる ひみつを

 説くのは むずかしい

 ただ あなたの

 瞳の奥に

 暗い

 瞳の

 あの奥に

 私を 見た気がしたの

 あれは

 私の中の宇宙』

 

 苑の子どもには名前がつく。

 迪はやさしく笑って息子を抱きしめる。

 

 そうして物語は終わり。

 

 このシーンを読んでやっぱりいくえみ綾は天才だと思いました。

 

 他にも、霊感少女水澤かなえは一見バカそうな女にみえて、きちんと女優としての自分というものを考えていて、彼女は迪を好きになって失恋するんですがその後女優としても人としても大きくなっていくんだろうなーと思わせます。

 翼は、あれ多分迪のことが好きだったんだと思うんですが。かなえがこの人ホモだからと冗談っぽくいってますが、本当に冗談だったのかな―と。峻に似ていて、もしかして迪のことが好きかもしれないというちょっと暗示的なキャラだった翼。迪とくだらないことで喧嘩したけど、友人として仲直り。なんにしても喧嘩別れにならずにすんでよかった。

 

 いくえみさんの漫画でたまに登場するゲイの男性を見るたびにいくえみさんBL描かねえかなーと考える。

 猫っ毛のトリビュートにコメント寄せるくらいだし、そのジャンルにそこまでの抵抗はなさそうなんですが…。

 まあ、到底無理そうですが。

 

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