十二国記新刊『白銀の墟 玄の月』読んだぞーーー!!
とりあえず読み終わっての感想走り書き。
そのうちちゃんとしたエントリー書くかも。
この記事にたどり着いた方でまだ本編読んでない人はいないと思うけど、ネタバレしかないのでご注意を。
あと、まだ一回しか読めてないので、認識が間違っている可能性も大いにあるので、その辺は広い心で読み飛ばして下さいませ。
————————————————————————読み終わってすぐの今、胸に去来する事柄は驍宗様勢のことではなく、実のところ阿選配下の胸の内だったりする。
恵棟と帰泉はマジでショック……
友尚や品堅には今も信頼があるからこそ阿選は汚れ仕事を命令できないでいた、ということを考えるとなんとも言えない気持ちになる。
結局、帰泉や恵棟を傀儡にした阿選。
きっと、帰泉は命令すれば従ったはずだ。
けど麾下からの反応を見たくないから阿選は傀儡にした。部下を見たくないし、部下に見られなくない。
阿選が最初に驍宗様を襲った時に烏衡のような部下を使うしかなかった、というその時から阿選の中の何かがずれてしまったのかなと思う。
烏衡が友尚のことを侮辱したとき阿選は怒ってたけど、今も品堅や友尚のことを正しく自分の麾下だと認識してて、どんな為人かもわかっている。
だからこそ、汚れ仕事はさせられない、という。
この気持ちがありながら、なぜ今のような状態に陥ってしまったのか。
と考えると、まだこの理性があったからこその今の捻れた朝廷になってしまったという気がする。
一言で片付けるなら阿選は麾下に「合わせる顔がない」。
偽王として起ったことを恥じてはいないが(その段階を突き抜けている)、自分の在りようが変容してしまったことはわかっている。
最初に驍宗を函養山で襲う命令をしたとき、つまり謀反を決意したときに部下を説得できないと思った、と阿選が回想してたけど、ここで、部下がついてこないことを阿選は知っている。そんな麾下ではない、と。
それでも、麾下は阿選に従ったかもしれない。その可能性は大いにあるし、多分そうなったんじゃないかと思う。
でも、阿選は説得できないと思った。今まで自分について来てくれた者たちはそんな命令に従うような麾下ではないと信じていたから。
この、奇妙な信頼関係がそのまま今の阿選に繋がっている。
友尚は、自分たちの存在が露見してでも土匪を助けに来た霜元や李斎を見て、『所属するならそういう陣営でありたかった』と独白する。
実際、阿選軍はそうであったはずなのだ。そういった理念を持っていた。だから、阿選はあれだけ慕われる将軍だった。それは間違いない。
驍宗と阿選は並び立つ存在だったし、琅燦や案作が言うほど愚かでもない。
なかったはずなのだ。
なぜなら驍宗様も認めてたからだ。
驍宗様はこういうことで人を見誤ったりしない人だと思う。
阿選の前で不甲斐ないことはできない。驕王の勘気よりも阿選の侮蔑の方が耐え難いと驍宗様も感じていた。
驍宗様は泰麒が王を選んだ後「その者如何によっては、玉座を掠め取ろうと思わないとも限らない」と麾下に話していた。実際にやろうと思えば驍宗様なら間違いなくできる。
阿選が王に選ばれたら、偽王になろうとしたかもしれない。
驍宗様が阿選と違ったのはここだと思う。
阿選はそうなるかもしれない自分がいることに気がついてなかった。というより、意識の俎上になかった。
そうなってかから初めてそうなのだと自覚した。
驍宗様は、阿選はいつか謀反を起こすと理由もなく確信してたといってるけど、それは多分自分ならそうしたからじゃないだろうか。
阿選と驍宗は似ていると周囲から言われてて、もちろん重ならない部分の方が多くあるはずだけれども「似ていた」。
重なる部分も多くあったのだ。
琅燦は嫉妬だと言ったけど、驍宗様への阿選の思いは羨望に近いんじゃないかと思う。
自分と同等、もしくは僅かに上をいく驍宗と並び立てる己という存在。
阿選は結局のところ他人に評価される自分を、自分という指針にしてた。
驕王からの評価、驍宗からの評価、配下からの評価。
それは、偽王になってからもそうだ。
麾下からの評価は決していたから、それを受け入れないために、顔を合わせない。
驍宗様に認められる自分であることを誇りとしていた。
でも、驍宗様は阿選を好敵手だと認めつつ、判断基準は常に自分だった。
自分の評価を他人に委ねたりはしなかった。
これが、阿選と驍宗様の決定的な違いだと思う。
驍宗様も阿選が眼中になかったわけじゃない。競っていたのは確かだ。阿選が思うように、自分だけが意識していた、歯牙にもかけなかったとかそういうことはなかった。
阿選はも不出来な人間ではなかったはず。
ただ、自分で自分を認める強さに欠けていた。
そういうところでは、驍宗様は独善的で他者を顧みないというのは本当なんだと思う。
ただ、それは一番に自分を信じているということの証左でもある。
阿選のかつての周囲と馴染む気安い気質は、他人の評価でしか自分を量れないことの裏返しなのかもしれない。
すごい乱暴な言い方をするなら、驍宗様は鈍感で阿選は繊細だったのだ。為政者として、という括りでいうなら。
そして、頭も良く、行動力もあり、従う部下もいた。
力を持っていたら試したくなるのは道理だ。
でも、阿選は自分の力を示したくて偽王になったわけじゃない。
ただ、驍宗と並び立てる自分でいることを示すため、あるいは自分の中の驍宗を超えるために行動した。
結果、その行為によって、驍宗様を超えることはできなくなったという皮肉。
それを自覚できる程度に己を知っている阿選。
最初から勝負は決まってたとわかっていたような気もする。
ただの八つ当たりのようにも思える。
どうして、いつから壊れてしまったのか。
きっと、理解し合えればこの上ない存在になったはずなのに。
でも、天の条理が支配する世界では、絶対にお互いに分かり合えないという運命なような気もする。
それが、切ないし少し寂しい。
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阿選が、李斎ともっと前に出会っていれば、とふと思った場面あったけど、実際こうなったのって阿選に友達が一人もいなかったからなのでは……?
もし、こうだったならと思うのは、その願望が心の中奥にあるからだと思う。
阿選は、心のどっかで李斎ともっと先に出会っていたかったと思ってる。
立場上驍宗麾下とは馴れ合えないし、自分の配下に胸の内は明かせない。
もし、阿選が自分の思いを吐露できる場を得ることができていたら、謀反を回避した可能性は高い気がする。
でも、阿選はそんな友人を持てる環境にはなかった。
それは驍宗様も同じなんだけど……
驍宗様はぶっちゃけ友達とか必要ない人だと思う。
もちろん気を許す仲間はいる。絶対的な信頼関係もたるけど、彼らは友人ではない。
でも、驍宗様は孤独じゃない。
でも、それはひとりで立っているということではなくて、周りがいないと成り立たないと本能的に知っている人。
驍宗様は孤高なんだけど、決して孤独ではない。自分も信じてるし、仲間も信じてる。
その信じるということを無意識にやってのける、というのが一番すごいのかも。
阿選は、なんか一人で立ってるような印象なんだよな。
一人で立って、一人で背負い込んでしまった。
実は、支えがあったことに気がつかなかった。だから背負い込んだ荷物を預けることが出来なかった。そして、ついにはその重さに耐えられなくなってしまった。
阿選が李斎と友人になれたらどんなことを語っただろうなー……